LAN工事の見積もりを何社かに出してもらうと、金額が大きく違うことがあります。そして安いほうを選ぶと、工事が始まってから追加費用が出る——というのは、よくある話です。
なぜそうなるのか。工事をする側から見ると、理由ははっきりしています。この記事では、当社が担当した大規模オフィスの配線工事を例に、「一式」と書かれた見積もりの中で何が起きているのかを説明します。発注する側が事前に知っておけば、防げるものがほとんどです。
着工までに、仕様は変わり続ける
まず知っていただきたいのは、図面が出てから着工するまでの間に、仕様は何度も変わるということです。
当社がある大規模オフィスの配線工事を担当したとき、契約前の約2ヶ月間で仕様の変更が8回ありました。内容はこういうものです。
- 光ケーブルと関連部材のメーカーが変わった
- 工事期間が3週間から4週間に伸びた
- 図面の改訂で、不要になったポートが削られ、別の場所にポートが追加された
- フロア間をつなぐ光ケーブルが1系統から2系統に増えた。さらにその2本目は「配線だけ」の予定から「接続まで行う」に変わった
- ケーブルの色分けのルールが途中で変わった
- パッチパネルの台数が増え、そのあと減った
- 使うケーブルの構造が撚り線から単線に変わった
どれも、お客様が気まぐれで変えたわけではありません。設計が詰まっていく過程で必然的に出てくる変更です。そして、このひとつひとつが金額に影響します。
見積もりの段階で「一式」とだけ書かれていると、この変更が起きたときに何が増えて何が減ったのかを誰も検証できません。結果、言い値の追加請求になります。
材料が手に入らないと、仕様が変わる
もうひとつ、発注する側が想像しにくいのが材料の調達です。
先ほどの現場では、既製品のパッチケーブルがメーカー在庫切れになり、急きょ現場で1本ずつ作る方針に切り替えました。本数は200本以上です。
製品を買ってくるのと、現場で作るのとでは、かかる手間がまったく違います。材料費は下がっても、人件費は上がります。こうした切り替えが起きたときに、見積もりが項目別に分かれていれば「材料費が減り、作業費が増える」と説明できます。「一式」だと説明のしようがありません。
ちなみにこの現場では、ケーブルの端に付けるコネクタが計算上501個必要でした。実際に発注したのは550個です。作業中の失敗や予備を見込んだ数です。まともな業者の見積もりには、こういう数量の根拠があります。
追加工事は、本工事と同時に走る
「追加工事」と聞くと、本工事が終わってから別途やるものと思われがちですが、実際は違います。
この現場では、着工が決まったあとに配線の増設が2件発生し、どちらも本工事と同時進行になりました。天井を開けているタイミングでまとめてやったほうが、あとから追加で開けるより圧倒的に安いからです。
逆に言えば、「あとで足せばいい」と思っていたものを後回しにすると、工事費は跳ね上がります。見積もりの段階で「将来増やす可能性があるか」を業者に伝えておくと、予備の配線を最初から入れるといった提案ができます。
現地を見ない見積もりが当てにならない理由
図面だけで金額を出す業者がいますが、現地に行かないと分からないことが多すぎます。
- 天井の構造(配線を通せるか、点検口がどこにあるか)
- 既存の配線がどれだけ残っているか。撤去が必要か
- フロア間をつなぐ経路(EPS)に、新しい配線を通す余地があるか
- ケーブルをまとめて降ろすダクトを新設する必要があるか
- 機器を固定する下地があるか。無ければ板を入れる作業が増える
最後の例で言うと、この現場では無線機器を固定するために合板を48枚用意しました。図面には出てきません。現地を見て初めて分かる作業です。
現地調査をしていない金額は、見積もりではなく概算です。そのつもりで受け取ってください。
稼働中のオフィスは、夜間・週末工事になる
すでに人が働いているオフィスでは、日中に天井を開けたり電源を止めたりできません。この現場も着工初日から夜間作業でした。
夜間・早朝・週末の工事は、当然ながら日中より単価が上がります。「いつ工事をするか」は、金額を左右する大きな条件です。見積もりを比べるときは、日中前提の金額と夜間前提の金額を並べていないか確認してください。
発注する側が準備しておくと、段取りが良くなること
大きなビルほど、工事に入る前の手続きが増えます。この現場では、着工前の事前訪問で次のものを提出しました。
- 作業員の氏名と連絡先
- 車両番号
- 安全用品(ヘルメット・安全靴・安全帯)の写真
- 資材の保管場所の確認
これらは当日になって用意できるものではありません。ビル側のルールを早めに業者へ渡しておくと、着工が遅れません。逆に、入館手続きや資材置き場が決まらずに初日が潰れる現場は珍しくありません。
完了したときに、受け取るべきもの
工事が終わったら、ちゃんと繋がっていることの証明を受け取ってください。
- 配線の測定結果。光ファイバーであれば専用の測定器による成績書が出ます
- どのケーブルがどこに繋がっているかの一覧。ラベルと図面が対応していること
この現場では、ケーブルを用途ごとに色分けし、1本ずつ番号を書き、パッチパネルのポートにもラベルを貼りました。何年か後に誰かが触るときに、これがあるかどうかで作業時間がまったく変わります。
「安い見積もり」には、この記録を作る手間が入っていないことがあります。工事そのものは同じでも、あとで効いてきます。
契約書で見ておくところ
金額以外に一箇所だけ見るとすれば、不具合が出たときに何ヶ月まで無償で直してもらえるかです。この現場では、当初の条件から期間を延ばす交渉をしました。
配線は、施工直後は問題なくても、時間が経ってから接触不良が出ることがあります。期間が短い契約は、それだけ発注側がリスクを持つということです。
現地を見てから、項目を分けた見積もりをお出しします
オフィスゲートはLAN配線・Wi-Fi・電話・防犯カメラを自社で施工しています。「一式」ではなく、何にいくらかかるのかが分かる形でお見積りします。
まとめ
工事の見積もりで金額が違う理由は、業者の良し悪しだけではありません。どこまでを見込んでいるかが違います。
確認すべきことを整理します。
- 項目が分かれているか。「一式」だけになっていないか
- 数量に根拠があるか
- 現地調査をしたうえでの金額か
- 日中工事と夜間工事、どちらを前提にしているか
- 測定結果やラベリングの記録が含まれているか
- 不具合への対応期間はどれくらいか
この6つを聞くだけで、業者の答え方に差が出ます。答えられない相手に任せると、追加費用は着工後にやってきます。