取引先から「次回の契約は電子で」と言われて戸惑っていませんか。近年、企業間契約でも電子契約サービスの利用が広がっており、紙の契約書をやり取りする機会は急速に減っています。しかし、電子契約の仕組みや法的効力、どのサービスを選べばよいのか、導入にどれくらいの手間がかかるのかなど、初めて検討する際には分からないことも多いものです。
この記事では、電子契約サービスの基本的な仕組みから、クラウドサインなど主要サービスの特徴、選び方のポイント、導入の具体的な手順まで、中小企業の経営者や担当者が知っておくべき情報を網羅的に解説します。
電子契約サービスとは何か
電子契約サービスとは、従来は紙に印刷して押印・郵送していた契約書を、インターネット上で作成・締結・保管できるクラウドサービスです。契約書をPDFなどの電子ファイルで作成し、電子署名や電子サインと呼ばれる技術を使って当事者が合意したことを証明します。
紙の契約書では印鑑を押すことで本人の意思確認を行いますが、電子契約では以下のような方法で本人性と非改ざん性を担保します。
- 電子署名方式:電子証明書を用いて暗号化し、契約者本人であることと文書が改ざんされていないことを証明する方式
- 電子サイン方式(立会人型):サービス事業者がメール認証などで本人確認を行い、その記録を残す方式
多くの電子契約サービスでは、これらの技術を組み合わせて法的効力を持つ契約締結を実現しています。
電子契約の法的効力
電子契約は、電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律)により、紙の契約書と同等の法的効力が認められています。特に一定の要件を満たした電子署名が付与された電子文書は、本人による真正な意思表示があったものと推定されます。
ただし、すべての契約が電子化できるわけではありません。法律や業界ルールにより紙の書面が必須とされる契約も一部存在します。代表的な例としては、定期借地契約や定期建物賃貸借契約など一部の不動産契約、訪問販売等のクーリングオフに関する書面などが挙げられます。自社の契約内容が電子化可能かどうかは、導入前に確認しておく必要があります。
電子契約で削減できるコストと手間
電子契約サービスの導入により、以下のようなコスト削減や業務効率化が期待できます。
- 印紙税の削減:電子契約には印紙税がかからないため、契約金額が大きい場合や契約件数が多い場合は大幅なコスト削減になります
- 印刷・郵送費の削減:契約書の印刷代、郵送費、封筒代などの実費が不要になります
- 保管スペースの削減:紙の契約書を保管するキャビネットや倉庫が不要になり、オフィススペースの有効活用が可能になります
- 契約締結のスピードアップ:郵送の往復にかかる数日~1週間程度の時間が、数時間~1日程度に短縮できます
- 検索・管理の効率化:過去の契約書を探す際、クラウド上で検索できるため、紙のファイルを探し回る手間が省けます
特に印紙税の削減効果は大きく、たとえば契約金額100万円超500万円以下の契約書には通常2,000円の印紙が必要ですが、電子契約ではこれが不要になります。月に10件の契約を結ぶ企業であれば、年間24万円のコスト削減になる計算です。
主要な電子契約サービスの種類と特徴
電子契約サービス市場には、さまざまな事業者が参入しており、機能や料金体系も多様です。ここでは選定時に押さえておくべき主要な種類と特徴を解説します。
署名方式による分類
電子契約サービスは、採用している署名方式によって大きく2つに分類されます。
当事者型(電子署名型)は、契約当事者自身が電子証明書を保有し、自ら電子署名を行う方式です。法的証拠力が高いとされますが、電子証明書の取得や管理に手間とコストがかかります。高額契約や厳密な証拠保全が求められる契約に向いています。
立会人型(電子サイン型)は、サービス事業者が第三者として契約締結に立ち会い、メール認証などで本人確認を行う方式です。利用者は電子証明書を取得する必要がなく、手軽に始められます。多くのクラウド型電子契約サービスがこの方式を採用しており、日常的なBtoB契約に広く利用されています。
料金体系の違い
電子契約サービスの料金体系は、一般的に以下のような構成になっています。
- 月額基本料金:サービスの利用権やユーザーアカウント数に応じて発生
- 送信料(従量課金):契約書を送信するたびに発生する1件あたりの料金
- オプション料金:電子証明書の発行、長期署名、API連携などの追加機能の利用料
契約件数が少ない企業では月額基本料金が安いプランを、契約件数が多い企業では送信単価が安いプランを選ぶとコストパフォーマンスが良くなります。無料プランや無料トライアルを提供しているサービスも多いため、まずは試用してから本格導入を判断することも可能です。
主要サービスの位置づけ
国内で利用されている主要な電子契約サービスには、クラウドサイン、freeeサイン、GMOサイン、DocuSignなどがあります。それぞれ機能や料金体系、サポート体制が異なりますので、各社の公式サイトで最新の情報をご確認ください。
選定の際は、自社の契約件数、取引先の利用状況、既存システムとの連携の必要性、セキュリティ要件などを整理したうえで、複数のサービスを比較検討することをおすすめします。
電子契約サービスの選び方
自社に適した電子契約サービスを選ぶには、以下のポイントを順番に検討していくとスムーズです。
契約件数と利用頻度の確認
まず、自社が月間または年間で何件の契約を締結しているかを把握します。契約件数によって最適な料金プランが変わるため、過去1年分の契約実績を集計しておきましょう。また、繁忙期と閑散期で件数に波がある場合は、その傾向も考慮に入れます。
取引先の対応状況の確認
電子契約は相手方の同意が必要なため、主要取引先がすでに電子契約に対応しているか、または対応する意向があるかを事前に確認しておくことが重要です。取引先がまだ紙の契約しか受け付けない場合、無理に導入してもメリットが得られません。
取引先へのヒアリングの際は、「当社でも電子契約の導入を検討しており、御社ではすでに電子契約サービスをお使いですか」といった形で尋ねると、相手の状況を把握しやすくなります。
必要な機能の洗い出し
電子契約サービスには基本的な契約締結機能のほかに、以下のような機能が提供されている場合があります。自社の業務フローに必要な機能を事前に洗い出しておきましょう。
- 契約書のテンプレート機能
- 承認ワークフロー機能
- 契約の自動更新通知
- 既存の会計ソフトや営業管理システムとのAPI連携
- 電子帳簿保存法への対応
- 複数言語対応(海外取引がある場合)
- 長期署名(タイムスタンプの長期保証)
セキュリティとサポート体制の確認
契約書には機密情報が含まれることが多いため、サービスのセキュリティ体制は重要な選定基準です。以下のポイントを確認しましょう。
- データの暗号化対応
- アクセス制御・権限管理の仕組み
- サーバーの冗長化やバックアップ体制
- ISO27001(情報セキュリティマネジメントシステム)などの認証取得状況
- サービスの稼働率や障害時の対応
また、導入時や運用中のサポート体制も確認しておくべきです。電話やメールでのサポート対応時間、日本語サポートの有無、導入支援やマニュアルの充実度などを比較検討しましょう。
無料トライアルでの実証
多くの電子契約サービスは無料トライアル期間を設けています。本格導入の前に、実際に自社の契約書を使ってテスト運用を行い、操作性や機能の十分性を確認することを強くおすすめします。
トライアル時には、経営層だけでなく、実際に契約書を作成・管理する実務担当者にも操作してもらい、使い勝手を評価してもらうとよいでしょう。
電子契約サービス導入の具体的な手順
電子契約サービスを実際に導入する際の、段階的な進め方を解説します。
ステップ1:社内での検討と承認
まず、電子契約導入の目的とメリットを明確にし、社内で合意形成を図ります。経営層、法務担当、営業担当、経理担当など、契約書に関わる部署の責任者を集めて、以下の点を共有します。
- 導入の目的(コスト削減、業務効率化、リモートワーク対応など)
- 想定される効果(削減できる費用、短縮できる時間)
- 導入にかかるコスト(初期費用、月額費用)
- 運用体制の変更点
この段階で、法務部門や顧問弁護士がいる場合は、法的効力や証拠力についての確認も行っておくと安心です。
ステップ2:サービスの選定と契約
前述の選び方のポイントに沿って、複数のサービスを比較検討し、自社に最適なサービスを選定します。無料トライアルを活用して、実際の使用感を確かめた後、正式に契約を結びます。
契約時には、以下の点を確認しておきましょう。
- 契約期間と自動更新の有無
- 解約条件と解約時のデータ取り扱い
- 料金の支払いサイクル
- サービスレベル保証(SLA)の内容
ステップ3:運用ルールの策定
電子契約サービスを導入する際は、社内の運用ルールを明文化しておくことが重要です。以下のような項目を社内規程やマニュアルとして整備します。
- どの種類の契約を電子化するか(すべて電子化するか、一部のみか)
- 契約締結の承認フロー
- アカウント管理のルール(誰がアカウントを持つか、権限の設定)
- 契約書の保管期間と廃棄ルール
- 取引先への案内方法
- 紙の契約との併用ルール
特に重要なのは、取引先への案内方法です。電子契約の利用が初めての取引先には、操作方法や法的効力について丁寧に説明する必要があります。事前に説明用の資料やFAQを用意しておくとスムーズです。
ステップ4:社内教育とテスト運用
本格導入の前に、関係部署のメンバーに対して電子契約サービスの使い方を教育します。以下のような内容を含む研修を実施しましょう。
- サービスの基本的な操作方法
- 契約書の作成から送信、締結までの流れ
- 締結済み契約書の検索・ダウンロード方法
- トラブル時の対処方法
- セキュリティ上の注意点
研修後は、一部の取引先や契約書で試験的に運用してみて、問題点や改善点を洗い出します。この段階で発見した課題を解決してから、全社的な展開を進めると失敗リスクを減らせます。
ステップ5:本格運用の開始
テスト運用で問題がなければ、本格的に運用を開始します。運用開始後も、定期的に利用状況をモニタリングし、以下のような点をチェックします。
- 月間の契約締結件数と送信料
- 契約締結にかかる平均日数
- 取引先からの問い合わせ内容
- 社内からの改善要望
運用開始後3ヶ月~6ヶ月程度経過したタイミングで、コスト削減効果や業務効率化の実績を測定し、経営層に報告すると、導入効果を可視化できます。
電子契約導入時の注意点とよくある課題
電子契約サービスの導入にあたっては、いくつかの注意点や課題があります。事前に把握し、対策を講じておきましょう。
取引先の理解と協力が必要
電子契約は自社だけでは完結せず、取引先の協力が不可欠です。特に以下のようなケースでは、導入のハードルが高くなることがあります。
- 取引先が電子契約に慣れていない
- 取引先の社内稟議で電子契約が認められていない
- 取引先の経営層が紙の契約書を強く希望している
このような場合は、電子契約のメリット(コスト削減、スピードアップ)を丁寧に説明し、取引先にとってもメリットがあることを理解してもらう必要があります。また、当面は電子契約と紙の契約を併用する柔軟な運用も検討しましょう。
過去の契約書の扱い
電子契約サービスを導入しても、過去に紙で締結した契約書は引き続き紙で保管する必要があります(法律で保存が義務付けられている期間は文書の種類によって異なります)。
過去の契約書をスキャンして電子化することは可能ですが、原本としての法的効力を持たせるには電子帳簿保存法の要件を満たす必要があります。単にPDF化しただけでは法的要件を満たさない場合があるため、専門家に相談することをおすすめします。
電子帳簿保存法への対応
電子契約で締結した契約書は、電子帳簿保存法に基づいて適切に保存する必要があります。多くの電子契約サービスは電子帳簿保存法に対応していますが、以下の点を確認しておきましょう。
- タイムスタンプの付与に対応しているか
- 検索機能が電子帳簿保存法の要件を満たしているか
- 定期的なバックアップが行われているか
- サービス終了時のデータ移行方法
2022年の電子帳簿保存法改正により、電子取引データの保存要件が変更されていますので、最新の法令に準拠した運用を心がけてください。
セキュリティリスクへの備え
電子契約はクラウド上でデータを管理するため、以下のようなセキュリティリスクへの対策が必要です。
- 不正アクセスによる情報漏洩
- アカウント情報の盗難
- サービス事業者の障害やサービス終了
対策としては、二段階認証の設定、アカウント権限の適切な管理、定期的なパスワード変更、重要な契約書のバックアップなどを実施しましょう。また、サービス事業者の経営状況や事業継続性についても、定期的に確認することをおすすめします。
電子契約と営業・マーケティングの連携
電子契約サービスは単なる契約業務のデジタル化にとどまらず、営業活動全体の効率化にも貢献します。
契約締結スピードの向上が商談を加速する
電子契約により契約締結までの期間が短縮されると、顧客が購買意欲を持っているタイミングを逃さずに取引を完了できます。特にBtoB取引では、稟議承認から契約締結まで数週間かかることも珍しくありませんが、電子契約を活用すれば大幅な時間短縮が期待できます。
顧客データベースとの連携
一部の電子契約サービスは、CRM(顧客管理システム)やSFA(営業支援システム)と連携する機能を提供しています。これにより、商談から契約締結、契約更新までのプロセスをシームレスに管理できるようになります。
たとえば、営業担当が商談を成約に導いた後、CRMから直接電子契約サービスに契約書を送信し、締結が完了したら自動的にCRMに記録されるといった運用が可能になります。
契約更新の自動通知で継続率向上
多くの電子契約サービスには、契約期間満了の一定期間前に自動で通知する機能があります。これを活用すれば、更新漏れを防ぎ、既存顧客との継続取引を確実にすることができます。
営業担当者は更新時期が近づいた顧客に対して、事前にフォローアップの連絡を入れることで、アップセルやクロスセルの機会も創出できます。
まとめ
電子契約サービスは、印紙税や郵送費の削減、契約締結スピードの向上、保管・検索の効率化など、中小企業にとって多くのメリットをもたらします。クラウド型の電子サインサービスが普及したことで、導入のハードルは大きく下がっており、無料プランや無料トライアルから始められるサービスも増えています。
導入にあたっては、自社の契約件数や取引先の状況を把握したうえで、複数のサービスを比較検討し、無料トライアルで実際の使用感を確かめることが重要です。また、社内の運用ルールを明文化し、関係者への教育を行うことで、スムーズな導入と定着が実現できます。
電子契約の普及は今後も加速すると見られており、取引先から電子契約での対応を求められる機会も増えていくでしょう。早めに導入を検討し、社内体制を整えておくことで、ビジネスの競争力強化につながります。